Vitascope
時計付き船型モーションディスプレイ 1944~1947年 イギリス製。
製造販売 ヴァイタスコープ・インダストリー社。
ヴァイタスコープとはスクリーン投写映画装置の意。
今回の修理内容
● 時計ムーブメントのオーバーホール
● 欠品している時計針の製作
● 電装を日本の規格に合うよう改造
裏蓋を開ける。 上部には背景のスクリーンがあり、取ると帆船が出てくる。
下部には回転する多色円筒形プラスチック板の中に電球が入っており、スクリーンへ様々な背景色が投影される仕組み。
ちなみにこの船のモデルはイギリスの快速帆船カティサーク号とのこと。
時計前部を分解し、ムーブメントを取り出す、 鉄錆と緑青と塵ゴミが凄い。
緑色の筒のようなものはモーターのコイル。
ここまで腐食が酷いとコイルは断線している可能性も高いのだが、幸いにも無事だった。
特に歯車には塵と緑青が堆積し固着が酷い。
ブラシ、薬剤、超音波洗浄機を使い分けながらパーツのクリーニング。
錆が酷いと綺麗にするのが大変、あまりに酷いと修復不可能な場合もある。
組み立て時はシャフトの変形や穴の磨耗が無いか確認しながら組み立てる。
モーター回転子の軸受けにシリコングリスを入れて封をする。
この部分が最も回転数が高いので潤滑は重要であるが、経験の無い人が弄ると、どうでもいい歯車に無駄に注油してしまう場合が多く、それが元で不具合が発生する時計は極めて多い。 機械は油注する場所を間違えると逆に不具合の元になりやすいのである。
この時計は不思議な構造である。 時刻を調整するノブ(写真、黒いノブ)はムーブメントに付いているのであるが、時計のケース本体の外に出ていないので、このノブを回して時刻をいじることは不可能なのである。 なので時刻調整は表から針を直接指で回して動かすこととなるのだが、針の軸が極端に細い為、明らかにここを回して調整するのは不向きな作り(特に指で針を回すタイプの軸は丸ではなく四角であるべき)である。
判り易く言えば頻繁に時刻を調整すると軸穴が広がってしまい、最終的には針は付かなくなって外れてしまうのである。
この個体に針が無かったのはそのせいではないかと思われる。
ケース裏面にもノブ(写真白いノブ)が出ているのだが、これは時刻を調整するものではなく、モーターを起動する為のノブ。
原理はクマトリモーターと似ているのだが時代的な理由か、自発的に起動するためのクマトリコイルが付いていないため、最初に人力で回転させる必要があり、これがその為のノブである。 起動コイルが無いのでノブを逆転させるとモーターは逆転したまま回転する、もちろん時刻も逆転する。
時計の針が欠品しているので、同じ形の針を持つ時計をパーツ取りとして探し出す。
言うと簡単だが、針の長さが同じで軸穴も同じという偶然はほとんどない。
なんとか針は見つけても、軸穴は当然合わないので歯車用のアダプターを作ることにする。
真鍮棒を削り、穴を開け、歯車に打ち込み、短針と合わせる。
筒は極わずかに狭く削り出してあるので、接着剤など使わずとも叩き込みだけで二度と外れない強度がある。
長針の方は時計側の軸が1.5mmほどの丸棒、針側は3mm程の四角穴なので、これも真鍮からアダプターを削り出す。
丸棒真鍮を四角に削り出し、叩いて長針をカシメてから棒を切断。
最後に穴を開けて時計に取り付ける。
ムーブメントをユニットに取り付ける。
円筒部分には時計モーターの回転を使い、1分間に二回転ほどの低速でゆっくり回る。
動力には電源同期モーターを使用しているので当時の精度は良くなかったと思われるが、
現在の電源は精密に周波数を管理されているのでクォーツ時計並みに精度が良い。
針穴が若干大きくなった為、針穴を固定するネジを新しく製作する。
ネジサイズがちょうどM8ボルトと同じな為、旋盤で頭を落として中をくり抜き、留めネジを削り出す。
左はイギリス製の電球とソケット 白いのが一般的な日本製ソケット
そして元々ついていたイギリス製の電球及びソケットは日本製のものに交換。
イギリスのソケットはB22という規格であり、Eタイプを使う日本とは金口形状が違うため、球が切れた場合に国産では替えが無いので、普通に入手可能なナツメ球用のE14ソケットに交換する、電球は10Wを使用。
ちなみに日本製の電球は非常に丈夫なことで定評があり、逆にイギリスの電球はとても切れ易いことで有名。
背景の変化を判り易くする為4倍速にしてあります
遅いと判り難いので2倍速になっています
乳白色のベークライト製ケースがレトロで良い。
夕暮れを表現しているため、写真で見るほどには光源は明るくない。
どちらかというと夜に真価を発揮するオブジェである。