TELEFUNKEN CARIÑO
Model: Cariño U1465 - Make: Telefunken Radiotécnica
SuperHeterodyne IF 468 kHz AM,SW1.5~5Mhz AC125V
テレフンケン、カリーニョ。 テレフンケン社はドイツだが、この製品はスペイン製。
カリーニョとはスペイン語で”可愛い”を意味する。
ドイツの造形は直線的デザインが多いが、カリーニョの曲線的なところはさすがスペイン。
発売は1955年、当時価格は1590ペセタ。
裏蓋をあけてみる。 何十年も開けていないため埃がすごい。
とりあえず電源を入れてみるも強烈なハムのみで受信せず。
オーナーは10年前までは使っていたとのこと。
ベークライト製ケースの表面は年月経過により艶なしマットな状態
底蓋の様子、蓋の材質は丈夫な紙製。
底部からコイル等の調整をするために開くよう出来ている。
シャーシを出してみる。 真空管もバリコンも埃だらけです、ダイアル糸はプッツリ切れています。
スピーカーへの電線は継ぎ足された跡が何箇所かあります。
普通の真空管ラジオは5球が多いが、カリーニョは整流管の替わりにダイオードを使用した珍しい4球ラジオ、ある意味ハイブリットである。 真空管は半導体と比べて電力損失が非常に多いが、半導体の損失はほぼ無視できるほど低いのでとてもエコである・・・・・となる筈なのだがトランスレスである以上、並列繋ぎのヒーター電圧を合わせる必要があるので、ここで工夫が必要となってくる。
手前2つの筒は抵抗器 後ろの黒い太筒がダイオード
使用真空管は12AB6 12BA6 12AV6 50B5。 120V仕様5球スーパーだとこれに35W4(整流管)などが加わるが、このラジオはその球の替わりに半導体(ダイオード)を使っている。 ここで真空管のフィラメントを並列繋ぎした場合の合計電圧は12+12+12+50=86V。 120Vで使用するには34V足りない。 カリーニョはこの足りない部分を埋める為、真空管の替わりに巻線抵抗を追加し合計電圧を合わせている。
真空管が減っても抵抗で電力を熱にしてしまっているため結果的にはエコとはならないが、当時としては安価な真空管の替わりに高価なダイオードを使用し”球切れ故障の少ない”信頼性を期待したものと思われる。
実際、整流管は電気的負荷が大きいのでよく切れるのである。
球を全て抜き、シャーシの錆を落とした後にアルコールで洗浄して汚れを落とす。
↑コンデンサーの両脇から何かハミ出ています、
↑巻線抵抗器は被覆が剥げています。
ペーパーコンデンサー、ケミカルコンデンサーは元々寿命の長いものではないので、真空管ラジオのレストアをする時は見た目が良くてもとりあえず全て交換してしまうと安心です。
抵抗器は結構丈夫なので滅多なことでは交換はしないですが、被覆が剥げると接触や発火の危険があるので交換します。
写真中央の白いチクワのようなものは巻線抵抗器、なぜかブラブラ空中配線で危険です。
茶色と赤の筒はケミカルコンデンサー、茶色のがオリジナルで赤いのが近年に交換されたものと思われる。
このラジオは過去に何回か修理を受けた跡があるが、パーツを見る限り国外での修理と推測できる。
抵抗器が浮いたままでは危ないので、端子を立てて抵抗を固定します。
また、抵抗器は被覆が剥がれボロボロだったので外すついでに交換しました。
また、茶と赤のケミコンも交換しました(黒い2つのが新しいケミコン)
クリーニングの終ったパーツ全景
剥げていたエスカッション裏のパネルをリペイントします。
シャーシについていた音量用ボリウム。 シャフト先端が乱暴に削られている所を見るとこれはオリジナルではなく、以前に交換されたものと思われる。
しかし今回の修理にあたり調べてみると、ガリが多いのとスイッチの接触が悪い為、再びの交換となります。
ちなみに現在は長軸のスイッチ付きボリウムは売っていないので、短いボリウムに延長シャフトにて対応。
延長シャフトは汎用品なので先端をツマミの形状及び長さに合わせて加工する必要があります。
デジカメ写真と見比べながら糸を掛ける図
外れ防止としてエンド部に接着剤かペンキを付けておくと安心
ダイアル糸を掛ける。 ダイアル糸掛け図等が付いて無い場合は外す前に記録を取っておかないと後で大変苦労をする。
糸が緩ければ滑り、キツ過ぎたりスレたりすると切れるので糸掛けはわりと気をつかいます。
ダイアル糸と釣り糸
ちなみに、ラジオに張る糸はダイアル糸という専用のものがある。 糸といっても裁縫屋には無く、電材店でしか扱っていない。 普通の糸と違いポリエステル内外2重構造になっている。(細い物だと単構造の糸もあります) 年月経つと自然に切れてしまうこともありますが、切れた糸の替わりに釣り糸と交換してあるものをよく見ることがあります、当ラジオも釣り糸でした。 しかし釣り糸は熱に強くないので、ある程度の期間が経つとカチカチになって切れてしまいます。
通電試験中 とりあえず異常な電圧も出ず、問題なく受信。
バリコンを回すと部分的にバリバリ言うので羽根の曲がりを修整してみる。
このまま1時間程通電するも特に異常は見られないので調整に入る。
ここで問題発見。
IFTを調整しようと思ったら2nd側(写真左)のフェライトの頭が欠けています。
写真右の1st側は欠けていないので見比べると判りやすい。
回して見ようとすると案の定、硬くて回りません。 過去の修理時に固着したフェライトを無理に回そうとして割ったのでしょう、これは古いラジオにはよくあります。
とりあえず少量のCRC556を垂らし、通電して暖め翌日に少しづつ回しながら固着は除去した。
ケース上部の銀色の板は厚紙にアルミ箔を貼ったボディアンテナ。
ほとんどのラジオの内部アンテナはバーアンテナ、ループアンテナを使うが、ボディアンテナは珍しい。
底部の蓋の内側は回路図が貼ってあります。
回路図の黒いシミはケミコンの内容物が垂れた跡とブラブラだった巻線抵抗の熱による焦げ。
ケースのビフォーアフター
ベークライトは磨けば磨くほど艶が出る。 極細コンパウンドもしくは車用のワックスなどを使うととても綺麗になる。
シャーシ裏のパーツ交換のビフォーアフター。
ほとんどのコンデンサーは交換しました。
短波コイル基板のビフォーアフター
断線チェックとクリーニング。 スチコンは大丈夫なので交換せず。
シャーシのビフォーアフター
ケース内部のビフォーアフター
昔は今ほどに永久磁石が強くなかったからであろうか、現在と比べてマグネット部分がやたら大きい。
今回交換したパーツと交換されたパーツ(一部です)
外部用のワイヤーアンテナを作りました。
現在のラジオと違い昔のラジオはデフォルトで外部アンテナが必須でした。
特に短波になると真空管式は外部アンテナ無しではままなりません。
薄暗い部屋で点けるとノスタルジックな赤っぽい明かりは風情があってとても美しい。
暫しの沈黙から時代を越え再びスピーカーは歌います。
これにてカリーニョの修理は終了。